[SFSジャーナル Smile Leaders]

#SmileLeaders 005
Dream Goal 2010

“Dream Goal 2010” の本当のゴールとは?

May, 2012

2010年南アフリカで開催されたFIFA ワールドカップで、FIFAスポンサーのソニーが、アフリカのテレビのない地域でパブリック・ビューイングを開催したことをご存じの方は多いかもしれない。だが、その ”Dream Goal 2010” プロジェクトの “本当の” ゴールは、日本ではあまり知られていない。

”Dream” は、2010年ワールドカ Goal 2010ップ期間中に、ガーナ共和国とカメルーン共和国で合わせて14回のパブリック・ビューイングを実施し(ガーナ11カ所、カメルーン3カ所)、約24000人の子どもたちにかけがえのない思い出をつくった。テレビ普及率も低く、ましてや、大画面での映像など見たこともない子どもたちがどれほど喜んだかは想像に難くない。だが、その子どもたちの目を輝かせ、心躍らせる、「世界トップレベルのサッカー観戦」というスポーツのチカラを活用し、MDGs(ミレニアム開発目標)達成に貢献したことに、”Dream Goal 2010” の最大の価値があることを忘れてはならない。

「パブリック・ビューイング」や「無料チケット配布」というのは日本でもよく実施されていることだが、”Dream Goal 2010” が画期的なのは、国連機関やグローバルのNGOと協力して、このプロジェクトをMDGs達成のための「ツールとして活用」し、「社会的インパクト」を与え、国際社会に貢献していることである。普段は受診しにくいHIV検査をワールドカップのパブリック・ビューイングの場で実施することにより、検診率を飛躍的に向上させ、病気の早期発見を促した、という「社会的インパクト」こそが、評価されるべき点である。ソニーは、ヨハネスブルクでも、子どもたちに観戦チケットを無料配布したが、これも現地のNGOと連携し、「HIV検査を受診したら」という条件付きの配布だった。

「MDGs」というのは、国連が2015年までに達成することを目標に掲げたグローバル課題の解決案で、国際社会がともに解決をめざす8つのゴール*のことだ。その中でも、HIVエイズ感染者の撲滅、というゴールは重視されており、特にアフリカ地域で実施されているスポーツを活用したプログラムは、エイズ教育を同時に行っているものも多い。よって、”Dream Goal 2010” がHIVエイズ撲滅に関する貢献プログラムをスポーツと併せて実施したことは、ある意味、自然な流れであった。

日本では目新しく聞こえるかもしれないが、グローバルで「スポーツを活用した社会変革(社会貢献)」といえば、スポーツだけをやるのではなく、スポーツをすることだけが目的なのではなく、スポーツをみたりプレイしたりするために人が集まるという「機会を活用」して、社会を変えるためのテコ入れをするプログラムのことをいう。それが、グローバルで通じる「スポーツのチカラ」だ。”Dream Goal 2010” は、その意味で、グローバルでも十分認められる内容のものであり、プログラム主催のソニーは、Beyond Sport Summit という、世界で実施されている卓越したスポーツ社会変革プロジェクトの表彰機構で、昨年日本企業として初めての受賞を果たした(Corporate of the Year)。

だが、この画期的な受賞までの道のりは、決してたやすいものではなかった。

ソニーで本プログラムを統括指揮してきたCSR統括部長冨田秀実氏によると、そもそもパブリック・ビューイングを実施する国としてガーナとカメルーンを選定したのは、アフリカのワールドカップ出場国から、テレビの普及率や安全性の観点から消去法で残ったのがこの2か国だったからだそうだが、ガーナでは、現地事務所がありすでにローカル・コミュニティでのネットワークを確立していたJICAと連携することになった。ただ、まず最初の課題は時間的な制約だった。JICAで当時アフリカを担当していた佐野景子氏は、「ソニーさんから話を受けたのは2009年4月で、その時にはまだ機材もテスト中でした。6月のコンフェデレーションズカップ時に7か所でトライアルを実施し、本当に信じられないくらいの急ピッチで進めたプロジェクトでした」と当時を振り返る。

JICAには2008年10月に民間連携室ができたのを機に、途上国の政府支援だけでなく、民間の視点からのCSR支援を手探りで実施してきた。”Dream Goal 2010” でのソニーとの連携も、「日本人にアフリカを知ってもらうための機会になる」というメリットがあり、同社からの連携依頼を承諾したが、当時JICAガーナ所長を務めていた山内邦弘氏によると、実際にプログラムのツールとしてスポーツそのものを活用した先例はなく、当初は困惑した部分も多かったという。だが、2005年から現地で実施していたエイズ啓発プログラムがちょうど終わる頃で、ワールドカップという機会とソニーのブランド力を活用することで、効果をあげられるプロジェクトになるのではないかと考えた。

そもそもテレビが普及していない場所での機材設置という現状に加え、昼間は現地のNGOと連携し、サッカーの試合のみならず、演劇や様々なコミュニティイベントを実施し、夜パブリックビューイングを終えた翌日すぐに次の会場に移動、という凄まじく忙しい毎日だったそうだ。現地のイベント運営は、青年海外協力隊で赴任しているボランティアにお願いしたが、合計18会場で実施し、上映イベントには約18650人が参加、HIVの受診者数は通常の約2.5倍、約3000人にのぼり、大きな「社会的インパクト」を与えることができた。

ただ、JICAはカメルーンには十分なネットワークとマンパワーがなく、ソニーは連携先探しに困っていた。そこへ、アフリカを最重要ターゲットとしワールドカップを活用して何かプログラムを実施したいと考えていたUNDP(国連開発計画)から連絡が入り、連携が実現した。

UNDPは”Match Against Poverty” という、ローカルのクラブチームがジダンやロナウド率いるUNDPチームとゲームをし、その収益をUNDPが定めた支援先に寄付するというプロジェクトを実施し大成功を収めてきているが、UNDP東京事務所の西郡氏によると、「(ソニーとの連携が決まる前から)グローバルのレベルでアフリカでのワールドカップという機会を活用できる方法を模索する動きがもともとあった」という。アフリカの子どもたちにパブリックビューイングを実施し、同時にHIV感染予防と治療を行うプロジェクトは、UNDPにとってまさに理想的であった。

だが、パートナーにはうまく巡り会えたものの、こちらも運営は一筋縄ではいかなかった。まず、東京にもオフィスを構えるUNDPだが、現地で一緒に仕事をするのは、日本人ではなく、さまざまな国籍の職員であった。しかも、現地の言語はフランス語である。活動内容は、ガーナと同じく、パブリックビューイング前後にコミュニティ・イベントを開催しエイズ啓発活動を実施するというものだったが、JICAの日本人職員が英語圏であるガーナで実施したプロジェクトとは異なる問題が多くあった。

「このプロジェクトの成功は、本当にソニーの方々の涙と汗の結晶です。」当時の実情を振り返り、西郡氏はこう述べた。2011年12月にブレア元英国首相の臨席のもと表彰を受けた、その華々しい舞台で冨田氏は「ソニーは子どもたちに世界一のプレイを見せるだけでなく、世界の課題であるHIV撲滅に貢献するためのプログラムを実施しました」とコメントしたが、ソニーがすごいのは、日本企業のたった5%しか認識していないというMDGsをCSR活動の目標として掲げ、「英語も通じず日本の現地組織との連携もない」という状況下で「それでもやる」という決断をし、そのグローバルプロジェクトを、さまざまな困難を乗り越えて成功させたことにある。

ところで、“Dream Goal 2010” は、パブリック・ビューイングやチケット寄贈の他にも、”Join the Team” という、植物性のプラスチックでできた再生可能なボールを寄贈するプロジェクトや、「シヤコナ(南アフリカの現地語で”We Can Do It” という意味)」という、若者にソニーの機材を提供し、取材活動を指導するプロジェクトがあった。私はそのシヤコナプロジェクトに参加した子ども達と現地で実際に話をしたが、平均再犯罪率が85%という国の10代、20代前半の若者が「将来はジャーナリストになりたい」と目を輝かせて話してくれた時は、心が温まった。

こうした現地での取組でソニーと連携したのが、現地のNGOであり、”Dream Goal 2010”は、最近よく言われる「企業とNGOの連携」の観点からも、お手本となるプロジェクトだ。

カメルーンで連携したstreetfootballworld は、世界でサッカーを活用した社会変革を推進するNGOを束ねるプラットフォームで、2012年5月現在60か国以上から100以上の団体が所属する。グローバルで非常に高い評価を得ており、創立者でCEOのユルゲン・グリーズベック氏は、アショカフェローでもあり、2011年世界経済フォーラム(WEF)の社会起業家大賞を受賞、今年のWEFでもスピーチをした情熱的な活動家である。そのグリーズベック氏は、”Dream Goal 2010” でのソニーと連携のメリットについてこう述べた。

「我々のメンバー団体が最も望んでいたのは、世界で存在感を示し、自分たちの声を世界に届けたい、ということ。ソニーはFIFAのスポンサーでもあり、サッカーとの関連が深いこと、またグローバル企業としての圧倒的存在感があり、サッカーへの情熱がグローバルの現象へとつながっていく価値を理解しており、パートナーとして理想的だった。」

ソニーとstreetfootballworld とは、コミュニティ開発やマーケテイングの分野でも連携をしており、アフリカでのキャパシティ・ビルディングや商品開発にソニーの社員がアドバイスを行ったりしているそうで、今後その連携を強化していきたい、とグリーズベック氏は語る。

”Dream Goal 2010” は、企業と政府機関、国際機関、NGOを連携させ、社会にインパクトを与え、国際社会に貢献した。スポーツは世界共通言語である、とはよく言われるが、スポーツが「社会を変える」ためのツールとしていかに有効かを再認識させるプロジェクトでもあった。ソニーはその後、”Dream Goal 2010” のスキームを進化させ、タンザニアでの教育プロジェクトにも活用したそうだが、その映像が、今年のWEFのクリントン元米国大統領も出席するセッションで流れたそうだ。

「スポーツのチカラ」が、世界で益々こだましている。

取材・文:梶川三枝

UNOSDP

国連事務総長付スポーツ特別顧問来訪!


Sport For Future Smile 2014東京

「誰でも、いつでも世界を変えることができる!」
プレスリリース(英語)LinkIcon

UNOSDP日本初登壇プレゼン公開!

SFSラウンジ2基調講演

国連にスポーツを扱う部署がある?
UNOSDP PDFLinkIcon