[SFSジャーナル Smile Leaders]

#SmileLeaders 003
Barclays Spaces for Sports

金融機関がスポーツで世界を変える!?
~グローバル企業が「投資」するスポーツのチカラ~

June, 2011

世界トップクラスの年俸を稼ぐ選手を擁する英プレミアリーグ。2006年からそのスポンサーとして君臨するグローバル金融バークレイズのロゴは、今や華麗なシーンの定番となった。だが、彼らの “栄華” はトップスポーツだけに留まらない。コミュニティを「変えた」Barclays Spaces for Sports が社会に与えるインパクトは、プレミアリーグの華々しいゴールにも匹敵する価値がある。

Barclays Spaces for Sports とは、2004年から導入された英バークレイズのコミュニティ開発プログラムのひとつで、英国内の貧困地域にスポーツ施設をつくり、マイノリティも含めた地域の人々に様々なスポーツをする機会を提供するものだ。 2004年の導入から3年間に、スポーツ関連NPOとパートナー契約を結び英国内で200のスポーツ施設をつくった。スポーツ用具の提供も含め、プログラム実施に使われた額、実に、3000万ポンド。日本円で約46億くらいだが、これは、英国史上、私企業が草の根レベルのスポーツ活動に投資した最高金額なのだそうだ。2010年から2013年までのプレミアリーグのスポンサー契約金額が8520万ポンド(約136億円)とのことなので、世界トップリーグのスポンサーシップの約3分の1強をこのBarclays Spaces for Sportsに割り当てていることになる。

「金融機関が貧困地域にスポーツ施設をつくる」ときいて、慈善事業としてとらえる人も多いかもしれない。だが、彼らはきっぱりこう言う。

「我々は慈善事業をやっているのではない。我々が事業を行うコミュニティに “投資” しているのだ。」

つまり、見返りを期待してやっている、と。実際、バークレイズのBarclays Spaces for Sportsへの“投資”は、リーマンショック後も継続され、減額さえされなかった。彼らの意識では、コミュニティ開発は「余力でやること」ではなく「必須事項」なのである。

私はこのプロジェクトについて、2009年から毎年取材を続けてきたが、話をしてきたプロジェクトのトップと広報担当官は一貫してこのマインドを強調した。前提としてあるのは、健全なコミュニティづくりに貢献することは企業活動の一部である、という、広義でいうところのCSR(企業の社会的責任)の考え方だが、バークレイズはBarclays Spaces for Sportsを実施するにあたり、明確なゴールを設定している。まずは「英国内のコミュニティを変え、継続的な効果を出すこと」、そして、「プログラムの認知度を上げること」、「社員を活動に従事させること」だ。

そして、その「投資」による効果はめざましい。

モニタリングレポートによると、バークレイズが改修、新設したスポーツ施設は全体で女性やマイノリティを含む50万人にスポーツの機会を提供し、各施設平均して毎週7万人がスポーツ施設を利用するようになったそうだが、利用者の6割が、「自分たちの施設はコミュニティから大切にされている」と感じるまでに地域に浸透したばかりか、そのおかげで、多くのコミュニティ内の反社会的行動や犯罪が25%も減少した、というのだ。また、移民受け入れ政策を推進してきた英国において、Barclays Spaces for Sports は民族融合の役割も果たしている。例えば、バーミンガムのアストン村周辺コミュニティでは76%の住民が黒人または少数民族で、それぞれが民族ごとにサッカーチームをつくって楽しんでいた。でも、Barclays Spaces for Sports の施設ができてからは、その別々のチームが一緒になってサッカーを楽しむようになった、というようなケースもある。

ところで、バークレイズは、お金だけを、「はい、どうぞ」といって出しているわけではない。実は各プロジェクトを展開するにあたり、各地域のニーズにあった施設をつくるよう、社員も現地に派遣しながらコンサルティングをきちんと行っている。その結果を踏まえ、例えば、地域でより好まれるスポーツプログラムを導入するよう工夫したり(展開しているスポーツはサッカー、ラグビー、クリケット他30種類以上)、ITや教育施設が併設されることもある。その結果、ニート予備軍だった若者が自信を取り戻し、スポーツを楽しむようになったり、学校に復帰したり、という効果もあった。プログラムの統括者、カーク・ハリソン氏によれば、プログラムはすべての地域で成功しているわけではなく、成果に差はあるようだが、行政やNPO等、より多くのステークホルダーを巻き込み、対話をして運営しているところほど、うまくいっているそうだ。全体としては、ほとんどのコミュニティで成果をあげており、バークレイズの従業員2000名ほどがボランティアとして参加したり、トップマネジメントも含む幹部役員も現場に足を運ぶなか、プログラムは従業員の8割に認知され、会社にとって有益なプログラムだと認識されるようになった。

この成功を機に、Barclays Spaces for Sports は2008年には海外展開し、現在では、南アフリカ、米国、スペインやジンバブエでも実施され、そして今年4月、ついに中国上陸を果たし、北京で出稼ぎ労働者の子どもたちのためのプログラムが開始された。現地パートナーとして選んだのは、アルベールビルオリンピックのスピードスケート金メダリスト、ヨハン・コスが創立したRight To Playである。カナダを本拠とし、これまで世界中に15000人ものトレーナーを送ってきた実績のあるNPOだ。すでに北京での活動拠点も構えていたことがパートナーシップ締結の決め手となった。ハリソン氏は、プログラムの中国への展開について、「北京の出稼ぎ労働者は、一般社会から隔離されてしまっている。スポーツを使ってその子どもたちの力になれればと考えた」と語る。もちろん、中国が彼らのビジネス上重要なマーケットだという前提であるが、バークレイズは54万米ドル(約5000万円)を投じて17000人の出稼ぎ労働者の子どもたちのためのスポーツ施設を建設、改修する。そして、Right To Play のトレーナー850名が3年間、各施設で持続可能な運営ができることを目標とし、スポーツを通した教育プログラムを提供することをコミットしている。

投資額やスケールもさることながら、Barclays Spaces for Sportsについて最も注目すべきは、やはり彼らのマインドである。彼らは「夢や希望を与えるもの」としてのスポーツにとどまらず、もう一歩先の、社会変革の手段としてのスポーツのチカラに注目している。バークレイズのみならず、世界では今や、「夢や希望を与える」だけでなく、スポーツを活用し今ある社会課題に対して真っ向から取り組んでいく姿勢が期待されている。普段は目を逸らしがちな社会問題にまで踏み込み、ファンや社会にそれらの現実と向かい合う勇気を与えることこそが、スポーツに携わる組織の社会的責任、というのが、今のグローバルスポーツ界のスタンスだ。この取材をさせて頂いたロンドンでの国際会議でも、2012年ロンドンオリンピック組織委員会委員長セバスチャン・コー氏が語ったスポーツのチカラは「夢や希望」だけではなかったし、エリザベス女王までもがテレビを通じて “社会を変える“ スポーツのチカラについて言及したのも記憶に新しい。Barclays Spaces for Sports も英国という成熟社会のこういったマインドの流れを汲んだものと推察できるが、スポーツ団体でもない金融サービス機関がスポーツのチカラに着目し “イニシアチブをとって” スポーツを活用してコミュニティの改善に努力している、というところが画期的である。

もうひとつ特筆しておきたいのは、Barclays Spaces for Sports は、プレミアリーグの選手も “部分的に” 協力はしているものの、スター選手を起用することをウリにしてプログラム展開しているのではなく、あくまでローカルでの自立性と継続性を確立することを意図して活動を展開することによって成果をあげている、ということだ。この “現地での自立的な運営と継続的にインパクトを与えること” はハリソン氏が最も強調するところである。「たった1回スター選手を連れていって子供たちと一緒にスポーツする、という活動はニュースにはなるかもしれないが、そのような活動からは我々が目指すような効果は得られない。活動は継続的に行われる必要があり、我々が引きあげた後も現地の人で運営していけるようなしくみをつくることが大切」。まさに、 “魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える” のだ。

日本はいま、未曽有の震災への対応を余儀なくされたわけだが、たとえ今回の震災がなくとも、日本には社会課題があった、ということも忘れてはならない。つまり、震災がなくとも、現代日本人のマジョリティが「日常生活」と呼ぶような毎日を送れずにいる人たちが少なからずいた。バークレイズが挑んだのは、「その気になればいつでもスポーツを楽しめる日常生活」を送っている人々のためではなく、荒地しかないコミュニティの人々のために、自分たちで継続的なスポーツ活動ができるチャンスを提供する、というハードルの高い目標であった。そして、そういう「社会から隔離されてしまった人々」をスポーツのチカラを活用して再生させ、コミュニティを見事に「変えた」という意味において、Barclays Spaces for Sports は “プレミア級“ と評されるのである。

これから相当の資金、労力、時間を要するであろう被災地支援活動、日本の復興に前向きに取り組む一方、津波が引いても、児童養護施設の7割の児童が虐待による被害者だという事実や、女性や外国人労働者の労働力に今後より依存していかなくてはならない現状は、消えることのない問題としてあることを認識しておきたい。CSRを事業戦略としてとらえる時代、より多くの日本企業が様々なコミュニティ活動を展開してきているが、被災地の方々も含め、今「日常生活」を送れていない人々を、スポーツで元気づけ、彼らの次のステップにつながるようなきっかけのひとつとしてのスポーツ活動を提供していくにはどうしたらよいか。グローバルのマインドやアプローチを参考に、いま一度スポーツのチカラの本当の意義について考えつつ、日本でもスポーツが ”社会課題解決のためのツール“ としてより効果的に活用されるようになることを願う。


取材・文: 梶川三枝

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